遠いようで身近なもの、地震、それは突然やってきます。オストメイトにとって、パウチやストーマ用品は生活必需品です。被災時にストーマ用品を支援する団体があり支援する制度はありますが、実際のところ緊急時には手元にパウチが届くのが遅くなることもあるようです。それらを解決すべく立ち上がった医療機関をご紹介します。
オストメイト専用の災害時のサポートアプリを開発
熊本県にある高野病院は、災害時にオストメイトが安心して生活できることを目的に、被災時に迅速なオストメイト関連情報を提供するスマホアプリの開発を開始しました。
アプリによって解決したいことはふたつあります。
ひとつは、オストメイト関連の情報を充実させることです。当事者の安否や避難場所、ストーマ用品に関連する緊急情報の発信などをします。
もうひとつは、ストーマ用品を緊急度に応じて遅れることなく適切にオストメイトに届くようにすることです。
このふたつの機能により、オストメイトとオストメイトの家族、医療機関、ストーマ用品メーカーが情報を共有でき、パウチのストックを切らしてしまうことなどが起きないようきめ細やかな支援が可能となるのだと思います。
アプリ開発のきっかけは6年前の熊本地震での悔しい想い
病院内で診療ができないくらい規模の大きい地震だった
熊本県で大きな地震が起こり、高野病院にも例外なく影響が出たそうです。ある程度の期間は院内での医療活動ができず、屋外で診察したり関連病院に転院したりしていたそうです。
最後の一人まで行き届かないオストメイトへの支援システム
そんな状況でしたが、災害時には「ストーマ用品セーフティーネット連絡会」からストーマ用品が病院へ支援され、オストメイトに届く仕組みがあります。しかし当時はうまく機能しているとは言えなかったそうです。
その理由は大きくふたつあります。
ひとつは、オストメイトであることを周囲に知られたくないため、当事者がひとりで抱え込んでしまうことです。そのため、支援情報が本人まで届かないことがありました。その証拠に約4割の方が緊急支援・情報がほしかったと回答されています。
もうひとつは、オストメイト本人が販売店や医療機関に連絡しなければ、支援を受けられなかったことです。
このようなことから災害時に十分な支援を行えず、高野病院は悔しい想いをしました。
当時、販売店の方が感じたこと・訪問看護師の方が感じたこと
ストーマ用品の販売店の方も、地震が起こってから多忙な日々を過ごしていたそうです。地震発生から1週間ほどは、商品の注文や確認のために緊急に来社する方や、寄せられる不安の声への対応に追われました。
自治体の定める避難場所にいない人も
特に気になったことは、一定の割合でどの種類の避難所にオストメイトが所在しているのかわからなかったことです。約半数は自治体の定める避難所にいたとしても、残りの約半数は大学や家族のいる老人ホームのロビー、税務署、車中泊などさまざまな場所に点在していたそうです。
問い合わせのあった方は随時対応していましたが、地震によって10日ほど断水があったりなどしたため、十分なケアや支援を受けられたかは疑問です。
そのため、オストメイトの避難場所の所在、必要なストーマ用品の情報が欲しいと感じたそうです。オストメイトにとっても、少なくとも必要な情報があることによる心理的安心は大きいと思います。
また、上記は販売店の方の例でしたが、訪問看護師の方の体験もありました。地震後、あらゆる配送がストップしたときに老夫婦に代わって定期のストーマ用品を取りにいったそうです。片道40分のところを、地震のため1日かかりました。災害時で人手が足りないところに人手を割かなければならなかった経験から、臨時で物品を入手できるシステムがほしいと感じたそうです。
そして災害時にオストメイトへ情報提供・収集をするアプリ開発へ至る
そこで当時の悔しさをバネに、アプリによって課題を解決すべく高野病院にてプロジェクトチームが結成されます。院長の高野さん、消化器外科部長の福永さん、WOCナースの横田さんが中心となり、プロジェクトを推進していきます。
開発資金を調達するためにクラウドファンディングを実地
着手した当時は自治体からの支援やストーマ用品メーカーからの広告費、ユーザーからの課金によって開発・運用資金を集める予定でした。しかし、コロナ禍によって行政への交渉も難航し、補助金の申請も厳しかったようです。そのため費用捻出のためにクラウドファンディングを開始し、目標金額を調達することができました。
アプリ主な機能は情報とストーマ用品のモビリティ
本プロジェクトでは、スマホのアプリであるLINEを媒介した情報伝達アプリとして開発するそうです。
オストメイト側の主な機能は、
・被災地区のオストメイトは安否メッセージを着信
・普段使いの販売店に位置情報、所在地、避難場所を返信
・ストーマ用品などの緊急支援物資の必要性などを返信
この行動により、販売店はオストメイトへの支援を速やかに開始することができます。
ゆくゆくはアプリの稼働範囲を九州へ。そして全国に適用を目指して
2022年10月から熊本県内でアプリの運用を開始しているそうです。そして2年後にはプロジェクトを横展開し、九州全体でアプリが使えることを目指します。ゆくゆくは日本全国のどこで災害に遭っても、このアプリにより必要な支援物質を届けるようになるのが目標だそうです。
出典:
READY FOR「災害時にオストメイトの生活を守る情報収集・提供アプリ開発にご支援を」
社会医療法人社団 大腸肛門病センター 高野病院「クラウドファンディングスタートのお知らせ」
熊本日日新聞「災害時にオストメイト支えるアプリを 安否や避難場所報告、必要な情報受信 熊本市の高野病院、クラウドファンディングで開発目指す」
さいごに
災害発生時には約1か月間、「ストーマ用品セーフティーネット連絡会」から無料でストーマ用品は支援される制度があります。しかし支援されるとは言え、災害という緊急時に物品が順当に手元に届かないかもしれません。実際、難しい状況だった方もいらっしゃると思います。その支援として立ち上がった本プロジェクト。実現すれば、災害時にオストメイトの強い味方になることは間違いありません。
日本は地震だけでなく台風や豪雨、土砂崩れなど、災害が多い国です。新しいツールとしてアプリに期待しつつ、ご自身でもいざというときのために備えておくことをおすすめします。