医療+α(プラスアルファ)という考え方
はじめまして、エムアクトの代表を務めさせていただいております神戸翼と申します。
私たちは、医療×IT×患者本意の実現を目指し、医療・ヘルスケア分野における問題や課題をITを用いて解決するために活動を行っております。
あるイベントが切っ掛けで始まったこの活動は、多様なバックグランドの仲間に恵まれ、クリエイティブ且つバラエティに富んだ、新時代の社会貢献活動を目指しています。
18歳の冬、大学受験の真っただ中。私は父を癌で亡くしました。この父の死がきっかけで私は今まで描いていた未来を大きく方向転換し、医療という分野へ足を踏み入れることとなったのです。大学時代には医学と臨床検査、再生医療の研究に携わり、また癌という病気について様々な観点から知識を深めてきました。そして卒業後は製薬企業と医療機関にて、臨床の現場と医薬品開発という最先端の研究に約8年間携わってきました。その間、海外の医療体制を学びたく1年間の海外留学にてカナダの呼吸器疾患コントロールセンターにて勤務、また医療へのビジネス視点の必要性を感じMBAコースに通学しました。その後、長年働いてきた職場を辞め、大学院にて医療政策と医療経済、医療機関の経営について研究し、また、時を同じくして医療系コンサルティング会社にて、地域医療という視点から、医療・介護福祉関連のプロジェクトに携わってきました。そして現在は、東京に所在する医療法人にて、医療政策に携わる傍ら、ダブルワークとして、NPO法人エムアクトの取りまとめを行っております。このように私は、父の死がターニングポイントとなり、今日まで医療とともに歩んで参りました。
医療・ヘルスケア分野には問題が山積み…
「患者本位」という言葉と「患者本意」という言葉があります。前者は、患者さんの立場にたってという意味を指し、よく医療機関の理念などで見かける言葉です。しかしながら、この患者さんの立場に立ってとは、非常に難しいことであり、実際に病気を持つ方からすると、心のどこかで医療従事者や健常人にはわからないと思っていることが少なくありません。つまり、そこには患者さんと医療従事者、患者さんと健康に気遣うことなく過ごす人達とのギャップがあり、そもそも「患者本位」という言葉自体がそれを物語っています。この壁を埋めることは非常に難しい現実があるのです。このことを踏まえ、我々の団体では、「患者本位」ではなく「患者本意」という世間ではあまり使われていない造語を用いています。本意とは、本当の気持ち、本来の意思、本心などを表します。患者さんが本当に思っているリアルな声に基づき、実際に一緒になって、課題を解決していくことを目指しています。
現在の日本の医療・介護福祉の体制には、そのほかにも様々な課題が残されています。ドラッグラグやデバイスラグの問題、少子高齢化と医療費の高騰、医療従事者の過重労働、自宅での看取りの問題などです。
このような状況を踏まえ、私はこれからの医療を考える際には、これまでの一方通行のような医療提供体制ではダメだと思っています。つまり、医療提供側、患者側、その間で活動する企業や様々な人々、医療全般の体制を整えるべく働く公職の方々などが、皆で考え協力し合う体制が重要なのだと考えています。そして、皆の協力体制の具現化ツールの一つとして、ITというものがキーになるのではと考えています。
まず最初に私たちが注目したのは?
そこで私と私の仲間は、まず病院から退院した患者さんの生活に着目し、これまで医療機関が介入できなかった自宅での生活をITを用いてサポートすることで、その質を向上させるアプローチに着手しています。それが「オストメイトなびプロジェクト」です。「オストメイトなび」とは、大腸がんや膀胱がん、難治性の消化器疾患が原因で、人工肛門や人工膀胱を持つこととなった患者さん(オストメイト)を対象としたスマホアプリケーションです。そして、彼らが抱える悩みや不安を、スマホアプリを用いて解決する新時代の医療の在り方を創造することが目的であり、オストメイトの社会的な認知向上も目指します。
アプリ開発の裏側にある本質
アプリの中身以上に重要な事は、この開発には患者側からの視点と医療従事者からの視点を取り入れ、更に関連する企業のコミットや自治体のコミットが促せるデザインを構想している点です。あるシステムが社会に根付くためには、その仕組みに関わるすべてのステークホルダーの意味づけが重要です。このプロジェクトでは、ある一つの目的に向けて各方面からプロジェクトへの参画を頂き、それぞれが皆で一つのシステムを構築するという意識を持って行動できるよう、私たちは全体の調整役(コーディネーター)として、機能したいと思っています。
このようにスマホアプリという一つの切っ掛けを通じて、医療や福祉、社会が抱える課題を解決するために、私たちは活動しております。より良い社会の構築のため、患者さんの生活の質向上のため、新時代の医療システム構築に向けたプロセスの具現化のために、今後も活動に邁進していきたいと思っています。
プロフィール
神戸 翼/TSUBASA KAMBE
NPO m-akt代表。臨床検査技師免許取得後、製薬関連企業に就職。その後、海外留学、大学院進学、コンサルティングファーム、大手医療法人の経営戦略・政策責任者を経て、医療経営と医療政策を軸にしたシンクタンクを起業、現在に至る。医療職団体や病院団体の外部委員も務め、大学では非常勤講師として医療リスクマネジメントを教える。専門は医療経営、医療政策、医療ITなど。慶應義塾大学大学院 健康マネジメント研究科 医療マネジメント専修・修了(Master of Healthcare Management)、早稲田大学大学院 政治学研究科 公共経営専攻・修了(Master of Public Management)。